■ がんリスク検診とは? 〜「がん検診」と「がんリスク検診」の違い 〜
最新の統計では、死亡原因の約50%は悪性新生物(がん)であり、症状がなく健康でもほとんどの「早期がん」は自覚症状に乏しいため、日頃から「がん検診」などにより病気を早期に発見することはとても重要です。例えば胃がんや食道がんなどの「がん検診」とは、自覚症状がなく健康的な方に特定のがんを見つけるための検査を行うことを言います。
欧米でのがん検診の受診率は60%以上と比較的高い受診率を維持していて、「がん検診」としても早期発見・死亡率低下に貢献しています。それに対して日本では「がん検診」の受診率が30%程度であり、先進国の中でもかなり受診率が低いのが実情のようです。さらに日本では「がんリスク検診」などにより病気に対してハイリスクな人をみつけて積極的に「がん検診」を行うしくみが整っておらず、病気を拾い上げることができずに病気が進行してからみつかる方も多くいらっしゃるようです。
「がん検診」に関しては、症状がないのに胃カメラなどの検査を受けるのに抵抗がある方もいらっしゃると思います。当院では、そのような方や、ご家族・ご友人など身の回りの親しい方で悪性新生物の指摘を受けたりして心配な方に対して、まずは「がん検診」ではなく「がんリスク検診」をお勧めしております。
「がんリスク検診」とは直接的にがんを見つける検査を行うのではなく、まずは血液や唾液など一部の検査材料を用いてがんのリスク(危険性)がどれくらいあるかを評価するものです。この検査を受けることによって、健康に対する意識だけでなく知識も高まり、自分自身の病気に対するリスクをきちんと把握することができます。さらに「がん検診」の受診や有症状時の検査を受ける事へのハードルも下がり、がんの早期発見につながると当院では考えております。
評価の方法はがんの種類や検査する材料によって異なりますが、当院では、胃と食道の専門家である学会認定専門医が、今まで培ってきた臨床・研究および厚生労働省班会議などの経験をもとに、特に「胃と食道がん」に対するリスク検診と、血液中のアミノ酸濃度に注目した新しい生活習慣病とがんのリスク検診である「AIRS(アミノインデックス生活習慣病・がんリスクスクリーニング)」に力を注いで参ります。
■ 胃がんリスク検診(ABC検診)
胃がんは、ヘリコバクター・ピロリという細菌が胃内に慢性持続性感染をすることで起こることがほぼわかっています。塩分摂取量が多い、緑黄色野菜の摂取量が少ない、さらに最新の論文では初めてもしくは現在も飲酒した時に1杯で顔が赤くなった(フラッシャー)かどうかも食道がんだけでなく胃がんのリスクに関わることが指摘されています。日本人に多く住み着くピロリ菌は胃がんのリスクが高く、日本では毎年約50万人の人ががんに罹患しますが、その1/4は胃がんでありとても多い疾患です。さらに毎年約5万人がこの病気でお亡くなりになっておりこれはがんの部位別死亡数では2番目に多い数字です。
胃がんリスク検診(ABC検診)は、胃の中に生息するピロリ菌の感染の有無と、ペプシノゲン判定による胃粘膜の萎縮度を血液検査で調べて、胃がんや胃潰瘍、慢性萎縮性胃炎など胃の病気に罹るリスクをAからDに分類します。判定がBからDの方には、内視鏡による精密検査を受けていただき、ピロリ菌の除菌治療や必要な治療、経過観察を行うことによって、胃がんなどの予防・早期発見・早期治療をめざすものです。
胃がんリスク検診は胃がんを直接見つける検査ではありませんが、すでにがん検診の入り口として多くの自治体で導入されている検診であり、早期胃がんの発見率が決して高いとはいえず、放射線被爆を伴う胃バリウム検診とは異なり、血液の検査で簡単に病気のリスクを知ることができ、その後必要ながん検診や保険診療を受ける大きな一助になるだけでなく、ご家族でピロリ菌に対する不安がある方にも敷居が低い検査です。詳しくはお尋ねください。
検査内容:問診票、血液検査(精密血清HP抗体、血清ペプシノゲン検査)
対象の方:年齢制限は特にありません。ただし①過去に胃がんリスク検診(ABC検診)を受けたことのある方、②ピロリ菌除菌治療を過去に受けた方、③食道・胃・十二指腸に関する疾患で、経過観察中・治療中または手術歴のある方、④プロトンポンプ阻害薬(胃酸の分泌を抑える薬)を2ヶ月以内に服用された方、⑤腎不全または腎機能障害のある方は、検査を受けられないことがあります。予約検査ではありません。
費用:税込3300円(別途診察料税込1650円がかかります)
■ 食道がんリスク検診(アルコール体質検診)
日本では毎年約2万人の方が食道がんに罹患し、毎年1万人以上の方が命を落としている病気です。胃がんに比べてもまだまだ予後の良い病気ではありません。本邦では食道がんの多くが扁平上皮がんというタイプで、のどから胃袋手前までの食道が連続して扁平上皮という種類の粘膜でできていて、食道がんと喉のがん(頭頸部がん)は関連が強いと考えられています。
食道がんの原因は、主に「お酒」と「タバコ」であることが今日までにわかっており、さらに日本人では特にお酒を代謝する2つの酵素が強く食道発がんに関係していると考えられています。ビール・発泡酒・日本酒・焼酎・ワイン・ウィスキーなど多くの種類があるお酒の成分であるアルコールは、体内で主に「アルコール脱水素酵素1B(ADH1B)」という酵素によってアセトアルデヒドに代謝されます。さらにアセトアルデヒドは主に「アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)」によってお酢(酢酸)に分解されます。この2つの酵素の働きが強いのか、弱いのか、その組み合わせによって5つのタイプに分かれますが、2つの酵素どちらかの働きが弱いと、のどや食道にアセトアルデヒドが高濃度に蓄積し、細胞を傷つけてがんが発生しやすいと考えられています。アセトアルデヒドは発がん物質であり、初めてもしくは現在も飲酒1杯程度ですぐ顔が赤くなる人は、フラッシャーといわれアセトアルデヒドによる副作用が実は出やすくアセトアルデヒドの蓄積により食道がん・頭頸部がんのリスクが高いと考えられているのです。
この2つの酵素の働きの強さは、唾液の検査で簡単かつ正確に調べることができます。食道がんリスク検診は、食道がんを見つける検査ではありませんが、唾液から2つの酵素遺伝子のタイプを調べて5つのタイプに分類し、さらにお酒・タバコ・生活習慣などを問診票でチェックして食道がんのリスクを知ることができるとても有益な検査です。食道がんは50歳以上の男性に特に多い病気ですが、今までの臨床経験から年齢・性別を問わずご自分の体質がわからないまま飲酒や喫煙習慣が継続した方からは食道がんが見つかるリスクが非常に高いのです。
お酒は食道がん・頭頸部がんのリスクを高めるだけでなく、フラッシャーでピロリ菌による胃炎がある方の胃がんリスク、肝臓がん、大腸がん、さらに乳がんのリスクも高めることが最近の研究でわかってきました。お酒はWHO(世界保健機関)で「発がん物質」と認定されており、残念ながら「百薬の長」ではないのです。しかし、日本酒換算で1日2合程度、かつ週4日までの飲酒習慣を守り、緑黄色野菜を多く摂取し、喫煙習慣を改善することで病気のリスクを下げることができることがわかっており、上手にお酒と「お付き合い」していくことが大切です。また若いうちからでもこの検査で食道がんのリスクとアルコール体質を簡単に調べることができるため、いわゆる「お付き合い」での飲酒習慣や生活習慣を改善する一助になると当院では考えております。当院の学会認定専門医はこの領域が専門です。丁寧に説明致しますので気軽にお尋ねください。
検査内容:問診票、唾液検査(アルコール脱水素酵素1B遺伝子タイプ、アセトアルデヒド脱水素酵素2遺伝子タイプ)
対象の方:年齢制限は特にありません。ただし遺伝子検査が含まれますのでご本人もしくは保護者の承諾書をいただいております。予約検査ではありません。
費用:税込3300円(別途診察料税込1650円がかかります)
■ AIRS(アミノインデックス生活習慣病・がんリスクスクリーニング)
AIRS(アミノインデックス リスクスクリーニング)とは、一回の採血で、血漿中のアミノ酸濃度のバランスを評価し、様々な疾患リスクを一度に評価する比較的新しい検査で、血液中のアミノ酸濃度を測定し、健康な人と病気である人のアミノ酸濃度バランスの違いを統計的に解析することで、がんに罹患しているリスクもしくは生活習慣病を発症するリスクを評価する比較的新しい検査です。健康な人の血液中のアミノ酸濃度は、それぞれ一定に保たれるようにコントロールされていますが、様々な病気になると一定に保たれている血液中のアミノ酸濃度のバランスが変化することがわかっており、この性質を応用した検査です。生活習慣病の発症リスクとがんのリスク(可能性)を評価することができます。
この検査(AIRS)は基本的に2つの検査(AICSとAILS)の組み合わせとなっており、健康な人と、生活習慣病である人のアミノ酸濃度バランスの違いを統計的に解析することで、がんに罹患しているリスクを評価するAICS(アミノインデックスがんリスクスクリーニング)と、脳・心疾患である人または糖尿病の人のアミノ酸濃度バランスの健常人との違いを統計的に解析し、さらに栄養素の一つである必須・準必須アミノ酸レベルの評価も加えて4つのタイプに分け、生活習慣病に対するリスクを評価するAILS(アミノインデックス生活習慣病リスクスクリーニング)が合わさった検査です。
特にAICS(アミノインデックスがんリスクスクニーニング)は、男性では膵臓がん・胃がん・肺がん・大腸がん・前立腺がんの5種類、女性では乳がん、子宮体がんもしくは卵巣がんの2種類と、膵臓がん・胃がん・肺がん・大腸がんの3種類を加えた6種類のがんに対するリスクを調べることができます。AICSの解析対象となるがんについては、いずれも死亡数の多いものであるにもかかわらずがん検診の受診率は低く、当院としても少しでもリスクの高い方をがん検診に誘導していく努力が医療機関として必要と強く感じております。「がん検診」に関しては、検査を受けるのに抵抗があったり、仕事や子育てなど忙しい時期と重なるため検査の機会を失ってしまう方も多くいらっしゃると思います。当院では、そのような方や、ご家族・ご友人など身の回りの親しい方でがんの指摘を受けたりして心配な方に対して、まずはAICSによるがんリスク検診をお勧めしております。この新しい検診は特に早期がんに対しても感度が高く、またがんの幅広い組織型でも感度が高いのが特徴です。またCEAやCA19−9といった腫瘍マーカーと比較しても高感度で、早期がんに対しても感度が高いとの報告もあり、腫瘍マーカーと組み合わせることでより高感度となることが期待できる検査です。
すでに健診施設や一部の自治体で取り入れられているがんリスク検診の一つであり、ハイリスクな人を拾い上げる手法として期待されている検査です。この検査は受けた時点でのリスクを評価するものですが、この検査を受けた後にがん検診を受けて異常がなくても、今後病気が出てくる可能性から継続的にがん検診受診を推奨している自治体もあります。がん検診受診の動機付け、また病気早期発見の一助として、検査をお勧めいたします。
検査内容:問診票、血液検査(男性AICR8種:生活習慣病3項目、膵臓がん・胃がん・肺がん・大腸がん・前立腺がん、女性AICS9種:生活習慣病3項目、膵臓がん・胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮がんもしくは卵巣がん)
対象の方:AICS:膵臓がん・胃がん・肺がん・大腸がん・乳がんの対象年齢は25歳〜90歳、前立腺がんは40歳〜90歳、子宮がんもしくは卵巣がんは20歳〜80歳、AILS:脳心疾患リスクは30歳〜74歳、糖尿病リスクとアミノ酸レベルについては20歳〜80歳です。これらの方以外のAICS値は評価対象外となります。ただし①検査時に妊娠もしくは授乳中の方、②先天性代謝異常の方、③透析治療を受けている方、④がん患者(治療中を含む)の方は、検査を受けることができません。検査前8時間以内に水以外(食事・サプリメントなど)は摂らないで午前中に採血します。この検査は原則予約検査です。
費用:男性8種 税込24200円、女性9種 税込24200円(別途診察料税込1650円がかかります)